【線形代数学入門】行列式の性質
1. 記事の目的
以下の記事で、行列式を定義した。本記事では、行列式の性質に関して述べる。
2. 転置行列と行列式
最初に行列の転置と呼ばれる操作を定義する。行列
に対し、成分を成分に移動させた行列
を作る。この操作を行列の転置といい、転置させてできた行列(1)を転置行列と言い、と書く。行列を転置させても行列式の値は変わらない。即ち次の定理が成り立つ。
定理
転置行列の行列式は元の行列の行列式に等しい。
証明:とすると、行列式の定義より、
一方で、
である。
となる置換をとる。逆置換を考えることで、
となる。(2)に代入すると、
3. 多重線形性と交代性
次に、行列式の多重線形性と交代性と呼ばれる性質に関して述べる。
定理
(1)
(2)
証明:(1)
とする。固定されたに対して、行列式の定義を次のように書き換えることができる。
と書ける。但し、
は、となる置換全てに関して和を取るという意味である。実際、固定されたに対して、となる置換は、個ある。同様にとなる置換、・・・、となる置換はそれぞれ、全て個ある。それぞれの個の置換は全て異なり、さらに、これらの全ての
個の置換は、互いに異なる(もし同じものがあるとするととなることなるがある。よって、となり矛盾)。よってこれらは全ての置換を渡る。よって、
(2) (1)の行列式の別表現を使用して、次のように証明できる。
次に交代性について述べる。
定理
文字の置換に対し
証明:
転置行列の行列式は元の行列の行列式に等しいことから、列に関する上記の定理(行列式の多重線形性と交代性)は、行に関しても成り立つ。
4. 基本変形と行列式
行列の基本変形の一つ、ある行(列)を定数倍して他の行(列)に加える、という操作を行っても行列式は変わらない。即ち、次の定理が成り立つ。
定理
行列のある列あるいは行に、他のある列あるいは行の定数倍を加えて得られる行列の行列式は、元の行列の行列式に等しい。
証明:列に関して証明する(転置行列を考えれば、行に関しても成り立つ)。まず次を証明する:行列の二つの列が一致すれば。とするとすると、行列式の交代性により、
即ち、より
よって、
定理の証明に戻る。の第列に第列の倍を加えたとする。
5. 行列の積の行列式
二つの行列の積の行列式を取ると、それぞれの行列の行列式の積となる。即ち次が成り立つ。
定理
を二つの次正方行列とすると、
証明:
とおくと、
6. 区分けと行列式
行列の区分けに関しては次の記事を参照。
定理(A)
正方行列を対称区分けして
または、
となったとき、となる。
本定理の証明は次の定理を利用するために少し難しい(次の定理(B)を使用しない証明方法があれば教えて欲しい)。
定理(B)
個の項列ベクトルの組、に対して数を対応させる規則
(写像という)が次の(1)、(2)の性質をもつとする。
(1)
(2)
このとき、はの定数倍となる。しかもその定数はである。即ち、
となる。ここで、は図 1 のようなベクトルである。
証明:
と表すと、
(3)式の最後の項で、の中に同じものがあれば、(2)の性質より
である。が全て異なれば
は文字の置換なので、(2)の性質より
となる。従って
定理(A)の証明:右上が0の時だけ証明する(左下が0の時は、転置を取ることで得られる)。が次、が次正方行列であるとする。最初に、の時を証明する。
とする。行列式の定義より、
上の一つの項で、の先の全てのに対してでない限り、その項はである(行列の形より)。即ち和は、
の形のものに関して取れば良い。このようなは文字の置換
と同じものであるから、より、
従って、の時は証明された。
[tex:X=(\boldsymbol{x}1,\boldsymbol{x}2,\dots,\boldsymbol{x}_n)]を次の変数と見て、
とおくと、行列式は多重線形性と、交代性により定理(B)の(1)と(2)の条件を満たすので、
従って、
より、として
が成り立つ。
7. 行列式と階数
を型行列とする。小行列式と呼ばれるものを定義する。から個の行と個の列を取り出して作った次正方行列の行列式をの次小行列式という。
例:
の2次小行列式を求める。行の取り方は、1行目と2行目の取り方のみである。列に関しては、1,2列目、2,3列目、1,3列目という取り方がある。よって
がの2次小行列式である。
定理7.1
型行列の階数は、の0でない行列式の最大次数に等しい。
証明:の階数を、の0でない小行列式の最大次数をで表すことにする。
を証明すれば良い。に基本変形を施して、標準形
に移す。行列の基本変形については以下の記事を参照。
この時、
である。よって、0でない小行列式の最大次数が基本変形によって変わらないことを言えば良い ((4)の最左辺がに一致する)。
基本変形の操作を、
列(行)の順序を入れ替える。
ある列(行)に0でない数をかける。
ある列(行)に他のある列(行)の定数倍を加える。
と番号付けをすると、は行列式の性質から(1)、(2)によって変わらない。(3)について考える。行列の第列に第列の倍を加えたとする。この操作後の行列をとする。の0でない次の小行列式の一つをとし、対応する場所にあるの小行列式をとする。第列がに入っていなければ、である。第列、第列が共にに入っている場合は本記事4.基本変形と行列式の定理より、である。第列がに入っていて、第列が入っていない場合は、となる。但し、はにおいて、の第列を第列で置換したものである。に対応するの小行列式をとすると(はの第列を第列で置き換えた行列の小行列式で、第列はの第列となっている)、であるから、となる。よって、のどちらかは0でない。以上の3通り(第列がに入っていない、第列、第列が共にに入っている、第列がに入っていて、第列が入っていない)で、である。実際、第1と第2の場合は、より、は少なくともよりは大きい。第3の場合、またはのどちらかがなので、は以上である。基本行列は可逆な操作なので、逆向きの不等号なので、である。
定理7.2
正方行列が正則であるためには、その行列式がではないことが必要十分条件である。
証明:が次正方行列として、が正則なとき、の階数は[tex;n]である(下記の記事の3節の定理[1])。
よって、定理7.1より、の次小行列式ででないものが存在し、それはである。よって、である。逆に、とすると、のでない小行列式の最大次数はとなり、定理7.1から、の階数はである。よって、は正則である。
8. 参考文献
[1] 線型代数入門
価格:2,090円 |
[2] 行列式の積
http://www.isc.meiji.ac.jp/~tsushima/senkei/第13回.pdf
行列式の積の定理に関して、こちらの直接的な証明を参照した。の場合を具体的に書いてあるのでこちらの方がわかりやすい。なお、行列式の積の定理は、区分けの証明で使用した写像に関する定理からも証明することができる。