【線形代数学入門】行列式の展開
1. 記事の目的
以下の記事で、行列式の定義とその性質について述べた。本記事では行列式の展開方法である余因子展開について述べ、連立一次方程式の解法への応用について述べる。
2. 余因子
次正方行列の第行、第列を除いてできる次小行列式をの第小行列式という。小行列式に関しては上記の記事、小行列式の性質を参照。
の第小行列式にをかけたものを、の第余因子という。
例:
として、の第余因子は、以下の図1の行と列を取り除いた行列の行列式にをかけたものである。
よって、の余因子は、
である。
行列を、余因子行列を使って展開することができる。
定理
次行列の第余因子をで表すとき、
が成り立つ。(1)、(2)をそれぞれ第列、第行に関する行列式の展開という。
証明:(1)のみ証明すれば、転置行列を考えれば、(2)が証明される。の第小行列式をと表すことにする。
まず、の場合を証明する。行列式の多重線形性より、
右辺の第項の行列式で、第行を一番上に持っていけば、行列式の交代性により
となる。区分けした行列の行列式の求め方から、
一般のに対しては、次のように求める。まず、第列を一番上に移す。この時、の行列式は倍される。即ち、
より、右辺をの場合と同じように考えると、
よって、両辺をで割って、
一般的に次が成り立つ。
定理
但し、
証明:(1)だけ証明すればよい。(2)は転置行列を考えれば良い。の時は前定理である。のとき、(3)の左辺は、の第列を第列で置き換えた行列の第列に関する前定理による展開式である。この展開前の行列は、第列と第列が同じ行列である。よってその行列式はである。
3. クラメルの公式
未知数の数と方程式の数が等しく、その係数行列が正則であるような連立一次方程式は唯ひとつの解をもつ。その解を行列式の展開を使って求める方法(クラメルの公式)を与える。
まず、余因子行列を定義する。として、を、成分とする次正方行列を考える。即ち、
(3)を余因子行列という。最初に次の定理を証明する。
定理
次正方行列の余因子行列をとすると、
証明:(1)、(2)式の左辺は、それぞれの成分及び行列の成分を表す。一方、(1)、(2)の右辺は、スカラー行列の成分及び、成分であるから、定理が成り立つ。
上記の定理から、次の定理が成り立つ。
定理
次正方行列が正則行列であるためには、が必要かつ十分な条件で、この時の逆行列は、で与えられる。
以上の定理から、クラメルの公式と呼ばれる、次の定理を証明することができる。
定理
連立一次方程式
(は次行列、は項未知列ベクトル、は項列ベクトル)の唯ひとつの解は次で与えられる。
即ち、の分母は、係数行列の行列式、分子は係数行列の列をで置き換えた行列の行列式である。
証明:(4)の解は、で与えられる。の第余因子を、余因子行列をとする。このとき
この最右辺のベクトルの第成分は、行列の第列の代わりにに置き換えた行列
の第列に関する展開式を並べたものである。
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4. 参考文献
[1] 線型代数入門
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