ベイジアン研究所

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【線形代数学入門】基底と次元

1. 記事の目的
以下の記事でベクトル空間の次元について述べた。基底とはベクトル空間の元を線型結合として表す基本的な元のことであったが、その存在性を示した。本記事では基底の個数の一意性を示し、その個数として、ベクトル空間の次元を定義する。

camelsan.hatenablog.com

2. 基底の数の一意性
零でないベクトル空間において、基底は必ず存在するが、その取り方は一通りとは限らない。

例:\mathbb{R}^2において、

\boldsymbol{e}_1=\begin{pmatrix}1 \\ 0\end{pmatrix}, \boldsymbol{e}_2=\begin{pmatrix}0 \\ 1\end{pmatrix}

は基底であるが、

\boldsymbol{a}_1=\begin{pmatrix}1 \\ 0\end{pmatrix}, \boldsymbol{a}_2=\begin{pmatrix}1 \\ 1\end{pmatrix}

\mathbb{R}^2の基底である。実際

0=c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2=
    \begin{pmatrix}
        c_1 \\ c_1 + c_2
    \end{pmatrix}

より、c_1=c_2=0である。よって、\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2は、線型独立である。また任意のベクトル{(x,y)}^Tは、


    \begin{pmatrix}
        x \\ y
    \end{pmatrix}
    = x\boldsymbol{a}_1+(y-x)\boldsymbol{a}_2

と表すことができる。よって、\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2\mathbb{R}^2の基底である。

しかし、どの基底も、必ず同じ数のベクトルからなることが証明される。そのために次の3つの定理を証明する。

定理3.1
V, V^{\prime}を、\mathbb{R} ( または \mathbb{C} )上の同型なベクトル空間とし、\varphiをそのVからV^{\prime}への同型写像とする。また、\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_k\in Vとする。このとき、\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_kが線型独立(または線形従属)ならば、\varphi(\boldsymbol{a}_1),\varphi(\boldsymbol{a}_2),\dots,\varphi(\boldsymbol{a}_k)も線型独立(または線形従属)である。
証明\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_kが線型独立であると仮定する。

c_1\varphi(\boldsymbol{a}_1)+c_2\varphi(\boldsymbol{a}_2)+\dots+c_k\varphi(\boldsymbol{a}_k)=\boldsymbol{0}^{\prime}

とする( \boldsymbol{0^{\prime}}V^{\prime} の零元)。このとき、線型性より

\varphi(c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\dots+c_k\boldsymbol{a}_k)=\varphi(\boldsymbol{0})\tag{1}

ここで右辺は、\boldsymbol{0^{\prime}}=\varphi(\boldsymbol{0})であることを使った( \boldsymbol{0}V の零元)。これは次のように証明できる。

\boldsymbol{0}=\boldsymbol{0}+\boldsymbol{0}

より、


\begin{split}
\varphi(\boldsymbol{0})&=\varphi(\boldsymbol{0}+\boldsymbol{0}) \\
&=\varphi(\boldsymbol{0})+\varphi(\boldsymbol{0})
\end{split}

両辺に\varphi(\boldsymbol{0})の逆ベクトルを加えると、

より、


\begin{split}
\boldsymbol{0}^{\prime}&=\varphi(\boldsymbol{0})+\varphi(\boldsymbol{0})-\varphi(\boldsymbol{0}) \\
&=\varphi(\boldsymbol{0})
\end{split}

\varphiは同型写像なので。逆写像\varphi^{-1}が存在する。式(1)の両辺を\varphi^{-1}で写すと、


\begin{split}
左辺&=\varphi^{-1}(\varphi(c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\dots+c_k\boldsymbol{a}_k ) ) \\
&=c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\dots+c_k\boldsymbol{a}_k \\
右辺&=\varphi^{-1}(\boldsymbol{0}) )=\boldsymbol{0}
\end{split}

よって、

c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\dots+c_k\boldsymbol{a}_k=\boldsymbol{0}

\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_kは線型独立なので、

c_1=c_2=\dots=c_k=0

よって、\varphi(\boldsymbol{a}_1),\varphi(\boldsymbol{a}_2),\dots,\varphi(\boldsymbol{a}_k)は線型独立である。

また、\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_kが線型従属と仮定すると、自明でない線形関係

c_1\boldsymbol{a}_1+c_2\boldsymbol{a}_2+\dots+c_k\boldsymbol{a}_k=\boldsymbol{0}\tag{2}

がある。式(2)の両辺を\varphiで写すと、線型性より

c_1\varphi(\boldsymbol{a}_1)+c_2\varphi(\boldsymbol{a}_2)+\dots+c_k\varphi(\boldsymbol{a}_k)=\boldsymbol{0}^{\prime}

よって、これは\varphi(\boldsymbol{a}_1),\varphi(\boldsymbol{a}_2),\dots,\varphi(\boldsymbol{a}_k)の自明でない線形関係である。よって、\varphi(\boldsymbol{a}_1),\varphi(\boldsymbol{a}_2),\dots,\varphi(\boldsymbol{a}_k)は線型従属である。

定理3.2
\mathbb{R} (または\mathbb{C} )上のベクトル空間Vn個からなる基底を持てば、V\mathbb{R}^n (または\mathbb{C}^n )に同型である。
証明\mathbb{R}上のベクトル空間について証明する(\mathbb{C}も同様)。\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\dots,\boldsymbol{e}_kVの基底ならば、Vの任意のベクトル\boldsymbol{x}

\boldsymbol{x}=x_1\boldsymbol{e}_1+x_2\boldsymbol{e}_2+\dots+x_n\boldsymbol{e}_n\tag{3}

と表される。このとき

\varphi:V\rightarrow \mathbb{R}^n;\boldsymbol{x}\mapsto
\begin{pmatrix}
    x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n
\end{pmatrix}

と定義する。このとき、\boldsymbol{x}の表示方法が2つあったとすれば、同じ元にも拘わらず、\varphiの行き先が2通りになる可能性がある。写像は、1つの定義域の元に対し、1つの値域の元を対応させる規則なので、上記の可能性があるとすれば、写像の定義として不適切である。但し、この場合は基底を使用して式(3)の表示方法は一通りであり、上記の可能性は否定される。実際、式(3)で2通りの表示方法があるとすれば、

x_1\boldsymbol{e}_1+x_2\boldsymbol{e}_2+\dots+x_n\boldsymbol{e}_n=y_1\boldsymbol{e}_1+y_2\boldsymbol{e}_2+\dots+y_n\boldsymbol{e}_n

より、

(x_1-y_1)\boldsymbol{e}_1+(x_2-y_2)\boldsymbol{e}_2+\dots+(x_n-y_n)\boldsymbol{e}_n=\boldsymbol{0}

\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\dots,\boldsymbol{e}_kの線型独立性から、

x_i=y_i, (i=1,\dots,n)

である。よって、\varphi写像として定義されている(\varphiはwell-definedであるという)。

\varphiは同型写像であることが証明できる。実際、任意の\mathbb{R}^nの元

\begin{pmatrix} y_1 \\ y_2 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix}

をとると、Vの元\boldsymbol{y}=y_1\boldsymbol{e}_1+y_2\boldsymbol{e}_2+\dots+y_n\boldsymbol{e}_n\varphiで写すと、

\varphi(\boldsymbol{y})=\begin{pmatrix} y_1 \\ y_2 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix}

より全射である。また、2元\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}\in Vに対し、


\begin{split}
    \boldsymbol{x}&=x_1\boldsymbol{e}_1+x_2\boldsymbol{e}_2+\dots+x_n\boldsymbol{e}_n \\
    \boldsymbol{y}&=y_1\boldsymbol{e}_1+y_2\boldsymbol{e}_2+\dots+y_n\boldsymbol{e}_n
\end{split}

と表されているとする。このとき\varphi(\boldsymbol{x})=\varphi(\boldsymbol{y})とすると、


    \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} y_1 \\ y_2 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix}

よって、

x_i=y_i, (i=1,\dots,n)

より、

\boldsymbol{x}=\boldsymbol{y}

よって、\varphi単射である。線形写像であることは、ベクトルの和の規則などから証明できる。従って、\varphiV\mathbb{R}^nの間の同型写像である。


定理3.3
K=\mathbb{R}または\mathbb{C}とする。
Kにおいて、n個より多くのベクトルは線形従属である。とくに、m\neq nならば、K^mK^nは同型ではない。
証明K^nの元\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_m, (m>n)によって与えられる、m個の未知数x_1,\dots,x_mに関するn個の斉次一次方程式

x_1\boldsymbol{a}_1+x_2\boldsymbol{a}_2+\dots+x_m\boldsymbol{a}_m=\boldsymbol{0}

は、以下の記事の定理7.1より、自明でない解をもつ。これは\boldsymbol{a}_1,\boldsymbol{a}_2,\dots,\boldsymbol{a}_m, (m>n)が線形従属であることを示す。

camelsan.hatenablog.com

K^mK^nが同型であるとすると、K^mm個の単位ベクトル\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\dots,\boldsymbol{e}_mに対応するK^nm個のベクトルは定理5.1より線型独立である。n \lt mとすると、上で証明したことにより、K^nn個より多くのベクトルは線形従属であるので矛盾する。よって、n\geq mである。同様に、K^m内の単位ベクトル\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\dots,\boldsymbol{e}_nに関して、。同じ議論をすれば、n\leq mが言える。よって、m=nである。対偶をとって、m\neq nならば、K^mK^nは同型ではないことが証明された。


以上の定理から、基底の個数の一意性を示す次の定理を証明することができる。
定理3.4
K=\mathbb{R}または\mathbb{C}とする。
K上のベクトル空間Vn個のベクトルからなる基底を持てば、n個より多くのベクトルは線形従属である。とくに、Vの任意の基底の個数はn個である。
証明:定理3.2より、VK^nに同型である。従って、定理3.1と定理3.3よりVn個より多くのベクトルは線形従属である。
(正確には定理3.1と定理3.3を次のように使用した。Vm個のベクトルを考える。このm個のベクトルを同型写像\varphi:V\rightarrow K^nで写す。このとき定理3.3より、写されたm個のベクトルは線形従属である。定理3.1より写像で写される前の元も線形従属となるので、最初に考えたm個のベクトルは、Vで線形従属である。)

Vm個の元からなる基底を持てば、定理3.2より、VK^mにも同型である。よって、K^mK^nが同型となり、定理3.3よりm=nである。

定理5.3からベクトル空間の基底の個数は常に一定であることから、ベクトル空間の次元を次のように定義できる。

定義
有限次元ベクトル空間Vの基底が含んでいるベクトルの数n (基底に依らず一意に決まる)を、ベクトル空間の次元といい、\rm{dim} Vとあらわす。

4. 参考文献
[1] 線型代数入門

線型代数入門 (基礎数学) [ 斎藤正彦 ]

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