1. 記事の目的
以下の記事で計量ベクトル空間について述べた。本記事では、計量ベクトル空間の計量同型写像である、ユニタリ変換について述べる。また、その行列表示にあたる、ユニタリ行列について述べる。ユニタリ行列は計量ベクトル空間の線型変換の対角化で重要となる。
本記事では、 またはとする。
2. ユニタリ行列
内の通常の計量(上記の記事の例3.1の計量)を考える。行列とこの計量に関し、次の定理が成り立つ。
定理2.1
が型行列ならば、任意のに対し、
が成り立つ(はの各成分で、複素共役をとった行列)。逆に任意のに対して
が成り立てば、である。
証明:の計量に関し、
とすると、通常の内積は次のように書き直すことができる。
と書くことができる(最下式の席は行列に関する積)。よって、
である。従って、式(1)が成り立つ。式(2)が成り立つと仮定すると、
である。移項することにより、
となる。従って、任意のに対し、である (式(3)で、とすればの各成分がになることから言える)。ゆえにである。
をの随伴行列と言い、で表す。
正方行列が、を満たすとき、をエルミート行列という。特に、実数のみを成分に持つエルミート行列を、実対称行列という。
続いて、ユニタリ行列を定義する。
定義
正方行列が、を満たすとき、をユニタリ行列という。特に実数成分のみからなるユニタリ行列を、直交行列という。
ユニタリ行列に関し、次の同値条件がある。
定理2.2
次正方行列に関する次の4条件は同値である。
(1) はユニタリ行列である。
(2) 任意のに対して
(3) 任意のに対して
(4) の列ベクトルをとするとき
証明:(1) (2) (3) (1) を証明して、(1)と(2)と(3)の同値性を示したのち、(1)と(4)の同値性を示して、(1)~(4)の同値性を証明する。
(1) (2)
(2) (3) まず証明方法について述べる。を複素数とする。つまり、実数部を、虚数部をとすると、
このとき、
よって、は、の実数部を表す。また、
より、は、の虚数部を表す。
ここでは、(2)を仮定し(3)を示すために、との実数部と虚数部がそれぞれ等しいことを、上記の実数部と虚数部の表現方法を用いて証明する。
任意の[tex:\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}\in Kn]に対して、
(3)の仮定から、
より、
である。よって、
より、ととの実数部分は互いに等しい、式(4)でにを代入すると、
となる。よって、
より、との虚数部も等しい。即ちである。
(3) (1) 任意のに対し、
である。よって、より、はユニタリ行列である。
(1) (4)
が成り立つ。をユニタリ行列とすると、
である。両辺で転置行列をとると
である。よって、式(5)より
が成り立つ。よって、
である。逆に、式(6)が成り立つとき、
である。両辺で転置行列をとれば、
であるから、はユニタリ行列である。
実数行列に対しては次が成り立つ(証明は定理2.2と同じ)。
定理2.3
次実数値正方行列に関する次の4条件は同値である。
(1) は直交行列である。
(2) 任意のに対して
(3) 任意のに対して
(4) の列ベクトルをとするとき
3. ユニタリ変換
計量ベクトル空間の線形写像で、それを行列で表現したときの行列がユニタリ行列であるようなものがユニタリ変換である。正確には以下で定義する。計量ベクトル空間と線形写像の行列による表示は下記の記事を参照。
まず、計量ベクトル空間の正規直交基底とユニタリ行列の関係を見る。
定理3.1
を上の計量ベクトル空間とする。をの2つの正規直交基底とする。このとき、からへの基底の取り替え行列を、とすると、はユニタリ行列である。
証明:は、からへの同型写像であるから、のとき、
である。よって、定理2.2より、はユニタリ行列である。
上記の定理の逆に当たる次も成り立つ。計量ベクトル空間の正規直交基底をユニタリ行列で移したとき、正規直交基底となる。実際、を正規直交基底とし、をユニタリ行列とすると、
であるので、も正規直交基底である。
ユニタリ変換を定義する。
定義
ユニタリ空間(ユークリッド空間) のから自身への計量同型写像を、のユニタリ変換(直交変換)という。
次の定理が成り立つ。
定理3.2
ユニタリ空間(ユークリッド空間) のユニタリ変換(直交変換) の任意の正規直交基底に関する行列はユニタリ行列である。逆にの線型変換の、ある正規直交基底に関する行列表示がユニタリ行列(直交行列)ならば、はユニタリ変換(直交変換)である。
証明:のに関する行列をとする。
は、からへの同型写像であるから、はユニタリ行列(直交行列)である。逆にがユニタリ行列(直交行列)ならば、はからへの計量同型写像であるから、は、からへの計量同型写像である。よって、はユニタリ変換(直交変換)である。
4. 参考文献
[1] 線型代数入門
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