1. 記事の目的
下記の記事で二次形式について述べた。本記事では、二次形式を用いて、二次曲線および二次曲面を分類する。分類は、数学の主要な問題の一つである。
2. 幾何ベクトルの座標変換
空間(平面)の座標系とは、一点と、幾何ベクトル空間 ( )の一つの基底 ( )との組である。
( )、 ( )として、二つの座標系、があるとき、 ( )の基底の取り換えの行列をとする。即ち
である。点の、座標系に関する位置ベクトルを
とする。点の座標系、に関する位置ベクトルを、それぞれ
とすると、であるから、
である。したがって、
である。また、
とおくと、
特に、、がともに直交座標系( が正規直交基底 )ならば、は直交行列である(下記の記事を参照)。
3. 二次曲線と二次曲面の定義
空間(平面)における二次曲面(二次曲線)とは、ある座標系に関する座標の二次の多項式の零点の集合のことである。
座標変換の式(1)から、座標の二次の多項式は、越の座標系に関しても二次の多項式なので、二次曲面(二次曲線)は、座標系に無関係な概念である。
二次曲面(q)がある直交座標系に関し、
で与えられるとする。
とすれば、
と表される。さらに
とおけば
となる。
二次曲面(Q)
に対しても、
とおけば、
と表すことができる・
式(3) ~(6)の変形結果から、二次曲線および二次曲面は、の階数および符号によって分類される。
、とするとき、、と仮定してもよい。((q)または(Q)を標準形に変形したとき、両辺にをかけることで、の場合に帰着することができる。)
直交座標変換
により、(q)または(Q)は、
と変形される。を適当に選び、がなるべく簡単な形になるように変形する。このとき下記の記事の定理4.2より、の符号は一定である。
まず、直交行列を適当に選べば、は対角行列になるので、座標変換を施すことで、最初からは対角行列であるとして良い。
4. 二次曲線の分類
と変形しておく。
(1) のとき
かつで、
より、座標変換、を施すと、
となる。を改めて、とおくと
が得られる。下記で、、とおく
より、改めて
とおく。
① のとき
(ア) のとき
より、(q)の左辺はとなり、解は存在しない。よって、(q)は空集合。
(イ) のとき
、より、とおくと、(q)は楕円
である。
(ウ) のとき
、より、(q)は、
より、の一点である。
(エ) のとき
より正の固有値が一つのみのときは存在しないので、この場合はない。
(オ) のとき
より正の固有値が一つのみのときは存在しないので、この場合はない。
② のとき
(ア) のとき
とのうち少なくとも一つ負の固有値が含まれるので、この場合はない。
(イ) のとき
・のとき、として(q)は双曲線
である。 ・のとき、として(q)は双曲線
である。
(ウ) のとき
、より、だが、の一方は負なので、この場合はない。
(エ) のとき
または、で、このとき(q)は
となる(相交わる2直線)。
(オ) のとき
、より、零でない固有値は少なくとも2つなので、この場合はない。
③ のとき
、よりこの場合はない。
(2) のとき
、として、座標系の平行移動を行うと(q)は、
を改めて、とおけば
が得られる。
より改めて
とおく。
① のとき
でないの固有値は一つのみなので、このような場合はない。
② のとき
①と同じ理由で、この場合はない。
③ のとき
(ア) のとき
とすると、のでない固有値の数は2以下となり矛盾。よって、である。また、とすると、を基本変形することによりでない固有値の数が2以下となり矛盾。よってである。従って(q)は、
で、とおくと、放物線
となる。
(イ) のとき
(ア)と同様にして、である。のとき負の固有値が存在しないので、である。このとき、負の固有値が2つとなり、この場合はない。
(ウ) のとき
とする。とするとのでない固有値の数は3となりと矛盾する。とすると、のでない固有値の数は1となりこれもと矛盾する。よってである。
とすると、基本変形によりの零でない固有値はの3つとなり矛盾。よってである。よって(q)は、
で左辺はなので、空集合である。
(エ) のとき
とすると、のとき、のでない固有値は3つとなり矛盾。また、とすると基本変形により、のでない固有値は3つとなり矛盾。よって、である。このとき、より、である。とおくと(q)は平行二直線
となる。
(オ) のとき
またはとすると、の固有値の数は2以上であるので矛盾。よって、である。このとき(q)は直線
となる。
(3) のとき
より、(q)は、
となり(q)は一次式となり、この場合はない。よって、以上で二次曲線の分類が完了した。
(2)③(オ)のときは一次式と同値であるから除く。さらに空集合および一点を除けば、二次曲線は五種類
に分類される。この中で、]が2つの一次式の積に分解される場合である(1)②(エ)、(2)③(エ)以外のものを本来の二次曲線という。それらは楕円、双曲線、放物線で尽くされる。
5. 二次曲面の分類
とし、とおく。
(1) のとき
平行移動により、(Q)は、
となる。を改めてと書き、とおくと、
となる。
より改めて
とおく。
① のとき
(ア) のとき
、より(Q)の左辺はなので、空集合である。
(イ) のとき
、よりとおくと、(Q)は楕円面
である。
(ウ) のとき
より(Q)は一点である。
(エ) のとき
正の固有値は3つあるので、この場合はない。
(オ) のとき
(エ)と同様にこの場合はない。
(カ) のとき
(エ)と同様にこの場合はない。
(キ) のとき
(エ)と同様にこの場合はない。
(ク) のとき
(エ)と同様にこの場合はない。
② のとき
(ア) のとき
のうちいずれかはであるが一方で、すべての固有値はにならない必要があるので、この場合は起こりえない。
(イ) のとき
とすると、である必要がある。とおくと(Q)は二葉双曲線
である。
(ウ) のとき
より、である必要があるが、のうちどれかは負なので、この場合はない。
(エ) のとき
とすると、である必要がある。とおくと(Q)は一葉双曲線
である。
(オ) のとき
とすると、である必要がある。このとき(Q)は楕円錐面
である。
(カ) のとき
より、でない固有値が3つあるので、この場合はない。
(キ) のとき
(カ)と同様にこの場合はない。
③ のとき
よりでない固有値が3つあるので、この場合はない。
④ のとき
③と同様に、この場合はない。
⑤ のとき
③と同様に、この場合はない。
(2) のとき
とし、とすると、(Q)は
より、を改めて[texx_1,x_2]とし、とすると
となる。
より。改めて
とおく。
① のとき
のでない固有値は2つなので、この場合はない。
② のとき
①と同様にこの場合はない。
③ のとき
(ア) のとき
のとき、でない固有値は3個以下となり矛盾するので、である。とすると、は基本変形により次の形に変形される
このときは少なくとも1つ負の固有値を持つことになるので矛盾。よって、となる。従って(Q)は、
より、と置くことにより、楕円放物面
となる。
(イ) のとき
で、とすると負の固有値は0個または2個となるので矛盾。よってである。このとき(Q)はの平行移動を行うことにより、楕円放物面
により(ア)と同じ場合になる。
(ウ) のとき
とするとの固有値の数は4となり矛盾。よって、である必要がある。よって(Q)の左辺はとなり空集合である。
(エ) のとき
(ア)と同様に、であり、である必要がある。このとき(ア)と同じ場合になる。
(オ) のとき
とするとの固有値の数は4となり矛盾。よってである。このときである必要がある。とおくと、(Q)は楕円柱面
となる。
(カ) のとき
またはのとき、の固有値の数は3以上となるので矛盾。よって、かつである。このとき(Q)は
でがなす集合
である。即ち直線である。
(キ) のとき
(カ)と同様にして[ tex:b_=0]かつである。このときの2つの固有値は正なので矛盾。よってこの場合はない。
(ク) のとき
の固有値の数は少なくとも2つなので、この場合はない。
④ のとき
、とする。
(ア) のとき
は少なくとも1つの負の固有値を持つので矛盾。よってこの場合はない。
(イ) のとき
とするとは2つの負の固有値をもつので矛盾。よって、である。このときとおくと、(Q)は双曲放物面
となる。
(ウ) のとき
のときの固有値の数は4となり矛盾。よってである。このときには少なくとも負の固有値が1つあるので矛盾。よってこの場合はない。
(エ) のとき
のときの負の固有値の数は1または3より矛盾。よって、である。またのときの固有値の数は3となり矛盾。よってである。このとき(Q)はの平行移動を行うことで双曲放物面
となる。
(オ) のとき
のとき、の固有値の数は4となるので矛盾。よってである。このときである必要がある。このときとして(Q)は双曲柱面
となる。
(カ) のとき
またはのときの固有値の数は3以上となり矛盾。よってかつである。は少なくとも1つ負の固有値をもつのでこの場合はない。
(キ) のとき
(カ)と同様にである。このとき(Q)は相交わる二平面
である。
(ク) のとき
には少なくとも0でない2つの固有値が存在するのでこの場合はない。
(3) のとき
、とする。とすると(Q)は、
より、を改めてとおき、[tex:c^{\prime}=c-\frac{b_12}{\alpha_1}]とおくと
となる。改めて
とおく。
① のとき
固有値の数が1のためこの場合はない。
② のとき
①と同様にこの場合はない。
③ のとき
①と同様にこの場合はない。
④ のとき
①と同様にこの場合はない。
⑤ のとき
である。
(ア) のとき
とするととなり矛盾。また、としてもとなり矛盾。よってこの場合はない。
(イ) のとき
(ア)と同様にこの場合はない。
(ウ) のとき
とするとは、
と基本変形される。このとき少なくとも負の固有値が1つあるので矛盾。よってである。よって、
である。
の変数変換をした後、とおくと(Q)は放物柱面
となる。
(エ) のとき
(ア)と同様にしてこの場合はない。
(オ) のとき
の変数変換により、(Q)は放物柱面
となる。
(カ) のとき
またはのときより矛盾。よって、である。このときである必要がある。このとき(Q)の左辺はより空集合である。
(キ) のとき
(オ)と同じ理由によりである。このときである必要がある。とおくと(Q)は平行二平面
である。
(ク) のとき
またはまたはであればより矛盾。よってである。このとき(Q)は平面
である。
以上で二次曲面の分類が完了する。(3)⑤(ク)の場合は一次方程式と同値であるから除く。さらに空集合および一点をのぞけば、二次曲面は、11種類に分類される。そのうちのもの(楕円面、一葉双曲面、二葉双曲面、楕円放物面、双曲放物面)を本来の二次曲面という。
6. 参考文献
[1] 線型代数入門
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