【線形代数学入門】二次形式
1. 記事の目的
本記事では、二次形式について述べる。二次形式の零点全体は、放物線などの図形である。二次形式を用いることで、放物線などの二次曲線の分類を代数的(文字式の変形によって)に行うことができる。二次形式には標準形と呼ばれる形がある。この際に対称変換の理論が必要になる。対象変換については下記の記事を参照。
2. 多項式
まず、1変数の多項式を定義する。
一つの文字と、の元から作られる式
次に多変数の多項式を定義する。最初に単項式を定義する。
個の文字との元から作られる式
を変数の単項式という。を単項式(2)の総次数という。個々のは単項式(2)のに関する次数と呼ばれる。
いくつかの単項式を記号で結んだ式
を変数の多項式という。多項式(3)に含まれるでない係数を持つ単項式の総次数の最大のものを、多項式(3)の総次数という。
多項式の核単項式の総次数がすべて等しいとき、その多項式を、斉次多項式という。このとき各探鉱しの総次数がのとき、次の斉次多項式と呼ぶこととする。
3. 二次形式
個の変数に関する実変数の2次の斉次多項式を、二次形式という。即ち
である。ここで、は[tex:x_i2]の係数であるから一意的に決まる。しかし、より、は一意に定まらない( の係数はとなり、和の分け方の不確定性によりは一意に決定できない )。今後、
という条件をつける(これによりの係数はとなり、が一意に定まる)。
例3.1
のとき
二次形式の係数から作られる行列を二次形式の行列という。よりなのでは実対称行列である。
とすれば
と表される。これを、対称行列によって定まる二次形式という意味で、
と表す。
例3.2
のとき、
とすると
これは、例3.1のと一致する。
4. 二次形式の標準形
二つの変数ベクトル
が正則行列によって、
なる関係で呼ばれているとする。
とおくとはの二次形式である。実際、
即ち、は対称行列によって定まる二次形式である。
二次形式が与えられたとき、適当な変数ベクトル ( は正則行列 )を見つけて、をなるべく簡単な二次形式にすることを考える。
特に、が直交行列ならば、なので、次の定理が成り立つ。
定理4.1
二次形式]に対し、適当な直交行列をとって、とすれば、
となる。但し、は、の(重複をこめた)固有値である。
証明:下記の記事の定理2.3より、は対称行列なので、が対角行列で、しかもその対角成分がの固有値であるものが存在する。
よって、
である。
定理4.1で、
となるように調整し、
により変数変換を行うと、
となる。これを二次形式の標準形という。
このとき次の標準形の一意性が成り立つ。
定理4.2 (シルヴェスタの慣性法則)
二次形式の標準形は一意に定まる。即ち、変数にどんな正則線型変換を施して標準形に写しても、正負の数は一定である。
証明:2通りの変数変換
によって、2通りの標準形
を得たとする。このとき、 ( の階数) である。
と仮定する。に関する連立方程式
は自明でない解を持つ。実際、方程式の個数はであり、より、変数の数より小さいため、下記の記事の定理7.1より成り立つ。
の形なので、
である。左辺はで、右辺はなので、両辺はでなければならない。よって、
となり、が自明でない解であることに反する。従ってである。とを入れ替えて、も言えるので、である。
一意に決まるの組を二次形式]の符号という。は実対称行列の正の固有値の数、は負の固有値の数である。
二次形式が正値(半正値)であることを定義する。
定義
でない任意のベクトルに対して、 (または )が成立するとき、二次形式は正値(または半正値)であるという。
であるから、下記の記事の定理4.1より、二次形式が正値(または半正値)であることと、実対称行列が正値(または半正値)であることは同値である。さらに、が成り立つことと同値である。
二次形式の正値性を小行列式によって判定することができる。
に対し、
とおく( )。
定理4.3
二次形式]が正値であるためには、が成り立つことが必要かつ十分な条件である。
証明:]が正値ならば、
より、
として、となるので、も正値である。
よって、ある直交行列があって、
となる。よって、
である。
逆をに関する数学的帰納法によって証明する。のとき、に対し、
より、であるためにはであることが必要十分条件なので、より成り立つ。のとき成り立つと仮定すれば、]は正値である。
と区分けしておく(行列の区分けは下記の記事を参照)。
とおくと、[tex:^tA{n-1}=A{n-1}]を用いて、
となる。定理4.1から、による変数変換の前後で、二次形式の正値性は変化しないので、
が正値であることを言えばよい。式(6)の両辺の行列式をとると、区分けと行列式の定理と、直交行列の行列式は常に、即ちより、
仮定より、であるから、である。でない項列ベクトルを
と区分けすれば
即ちは正値である。
でない任意のベクトルに対して、 (または )となるような二次形式は負値(または半負値)であると言われる。]が負値であるのは、丁度]が正値のときなので、定理4.3から、から次の定理が得られる。
定理4.4
二次形式]が負値であるためには、が成り立つことが必要かつ十分な条件である。
5. 参考文献
[1] 線型代数入門
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