【線形代数学入門】基底と行列
1. 記事の目的
以下の記事で、基底の定義と基底を使った次元の定義について述べた。本記事では、基底の変換行列およびベクトル空間の間の線形写像の、行列による表現について述べる。
本記事では、常にまたはを表すものとする。
2. 基底の変換行列
を上のベクトル空間とする。とをの2つの基底とする。これら2つの基底が定めるからへの同型写像をとする。即ち任意のの元を、と表したとき、
である。
このとき、は、からへの同型写像であるから、以下の記事の4節の定理から、次正方行列によって定まるの線型変換に等しい。
このとき、の元に対し、
である。
である。即ち、
が成り立つ。このとき行列を基底の取り替え行列という。
を、の線型結合として表して、その線形結合の係数を求めてみる。
と表す。このとき、は、式(1)に
を代入することで求めることができる。よって、である。よって
となる。
3. 線形写像の行列による表現
ベクトル空間において、基底を選んで、線形写像を行列で表現することを考える。
ベクトル空間の一つの基底を選べば、からへの同型写像が決まるので、基底とその同型写像を合わせて、基底と言うことにする。
をそれぞれ上の次元と次元の線形空間、をからへの線形写像とする。の基底、の基底をとる。このときはからへの線形写像なので、ある型行列によって、
と書ける。行列を基底、に関するの行列という。
基底に関する線形写像の行列を具体的に求める方法を述べる。上記で用いた記号の下で述べる。の基底をによって写して、写されたベクトル空間の基底を使って線型結合で表した係数を見ることで求めることができる。
とおく。式(2)よりで、とおくと、
従って
この式により、の行列の成分を求めることができる(基底を実際に線形写像で写して、値域のベクトル空間の基底で具体的に線型結合で表して、その係数を行列の成分として並べればよい)。
4. 線形写像の行列による表現と基底の変換
3節において、ベクトル空間の線形写像を行列で表現することを考えた。本節では、ベクトル空間の基底を変えた場合に、その線形写像の行列による表現はどう変わるかを見る。
をそれぞれ次元、次元のベクトル空間とする。をからへの線形写像とする。、をそれぞれとの基底とする。、をそれぞれとのもう一つの基底とする。
基底、に関するの行列を、基底、に関するの行列をとする。即ち
である。の基底、に関する取り替え行列を、の基底、に関する取り替え行列をとすると、
である。このとき、
従って、
が得られる。
5. 線形写像と階数
3節の結果から、線形写像を行列によって表現することができた。このことから、線形写像の階数を定義することができる。線形写像の階数の概念は、その表現された行列の階数であることを後々見ていく。行列の階数に関しては、以下の記事を参照。
をベクトル空間とし、をからへの線形写像とする、の基底を、とする。これを拡大したの基底をとする。より、となるの元がある。このとき、が線型独立なので、次の記事の定理3.1から、も線型独立である。
また、次の記事の定理2.1により、の次元はである。
よってその基底をとする。このときはの基底となる。実際、の任意の元を、とする。より、の基底はなので、
と表すことができる。また、となるようにとっていたので、
従って、
より、
で、をの基底としてとっていたので、
とかける。よって、
よりの任意の元は、の線型結合で書くことができる。つぎに線型独立性を示す。線形関係
があったとすると、両辺をで写すことにより(、を使う)
は線型独立なので、である。式(3)に代入して、
となる。も線型独立であることから、である。よって、は線型独立である。以上より、はの基底となる。
線形写像の、基底とに関する行列は、
であるから、
である。以上の議論から次の定理が証明された。
定理5.1
ベクトル空間からへの任意の線形写像に対して、の基底とを適切に選べば、とに関するの行列は、標準形
となる。
定理5.1は、線形写像の階数と行列の階数の関係を述べるためにカギとなる。
ここで、線形写像の階数を次のように定義する。
定義5.2
がベクトル空間からへの線形写像であるとき、像空間の次元をの階数という。
次の定理が成り立つ。
定理5.3
がベクトル空間からへの線形写像であるとき、の階数は、との任意の基底に関してを行列で表現したときの、行列の階数に等しい。
証明:定理5.1からの行列による表現が標準形になる基底が存在する。このとき、定理5.1の中の議論から、像空間の次元と行列の階数は等しい。また、その他の基底の取り方に関しては、4節の式(3)による関係があり、その行列による表現は互いに基本行列で写り合うことができるので、階数は変わらない。従って、任意の基底の取り方についての像空間の次元と、を表現した行列の階数は等しい。
6. 参考文献
[1] 線型代数入門
価格:2,090円 |