【線形代数学入門】正規変換
1. 記事の目的
下記の記事で、計量ベクトル空間について述べた。
計量ベクトル空間の間の線型変換の対角化について述べる。特に、正規変換と呼ばれる変換の対角化について述べる。対角化については下記の記事を参照。
2. 正規変換の定義
をユニタリ空間(つまり常に上で、計量が入っているものと仮定する)、をの線型変換とする。
ある正規直交基底に関してを表現する行列をとする。このとき
で表現されるの線型変換をの随伴変換といい、で表す。は次の定理で述べられるような条件でも特徴づけられる。
定理2.1
をユニタリ空間、をの線型変換とする。
がの随伴変換であることの必要かつ十分な条件は、任意のに対して
が成り立つことである。
証明:がの随伴変換であるとき、の基底ををとって、を基底に関して、表示した行列をとすると、の行列表示はである。このとき
の両辺をで写すと( は計量同型なので、計量を保つ )
となる。逆に
が成り立つとき、を基底に関して表現した行列を、を表現した行列をとすると、式(1)の両辺をで写すと、
となる。よって、
より、[tex^{\ast}]を基底で表現した行列はとなり、は随伴行列である。
定理2.1から、式(1)を成り立たせるようなは一つしか存在しないので、随伴行列は、正規直交基底の取り方には無関係である。
正規変換を定義する。
定義
をユニタリ空間の線型変換とする。このとき
が成り立つ[tex;T]を、正規変換という。
次正方行列が正規行列であるとは、
を満たすことである。よって、正規変換の、任意の正規直交基底に関する行列は、正規行悦である。
3. 正規変換の対角化
任意の正規変換は、適当な正規直交基底に関して対角行列によって表現されることを証明する。
まず、次の定理を証明する。
定理3.1
複素線形ベクトル空間の2つの線型変換が交換可能ならば、は少なくとも一つの共通な固有ベクトルをもつ。
証明:のある固有値に対する固有空間をとする。このときとすると、
である。よって、となる。の定義域をに制限した写像を
とする。ここで、上で証明したことから、の値域はとなる。よって、はの線型変換であり、その固有ベクトルをとると(固有方程式を考えれば、少なくとも一つ複素数の解を持つので、固有値を持ち、その固有ベクトルがある)、はの固有ベクトルであり、でもあるので、の固有ベクトルでもある。
次の定理を証明するために、不変部分空間の概念を導入する。
定義
を (または )上のベクトル空間として、をの線型変換とする。また、をの部分空間とする。このとき
が成り立つとき、はによる不変部分空間(または-不変部分空間)であるという。
次の定理を証明する。
定理3.2
次元ユニタリ空間の2つの線型変換が交換可能ならば、次のようなの部分空間の列が存在する。
(1) は-不変部分空間かつ-不変部分空間である。
(2)
(3)
証明:のとき、とすると成り立つ。
のときに主張が成り立つと仮定する。の随伴変換をそれぞれとすると、任意のに対し
より、となる。即ちとは交換可能である。定理3.1より、とに共通な固有ベクトルが存在し、それをとする。
とする( はと直交するのベクトル全体 )。
は-不変かつ-不変である。実際、とすると、
ここで、はに対するの固有値である。よって、であり、は-不変である。をにして同じ議論ができるので、は-不変である。のへの制限をとすると、と は交換可能である(もともとのとが交換可能であるため)。また、
より、
なので、
である。数学的帰納法の仮定より、次のようなの部分空間の列が存在する。
(1) は-不変部分空間かつ-不変部分空間である。
(2)
(3)
このとき、の部分空間の列が定理の条件を満たす。
定理3.2を行列の言葉で述べると次のようになる。
定理3.3
2つの正方行列が交換可能ならば、適当なユニタリ行列が存在して、は同時に、上三角行列となる。特に、として、任意の正方行列に対してが上三角行列になるようなユニタリ行列が存在する。
証明:正方行列の対角線の左下にある成分がすべてであるとき、を上三角行列であるという。即ち
定理3.2において、、、とする。の元で、と直交する長さのベクトルをとると、の正規直交基底に関するの行列はともに上三角行列である(各は-不変であるため)。とすれば、その行列表示は、である。
固有値に関して次の定理が成り立つ。
定理3.4
(1) が交換可能ならば、 (あるいは )の固有値はの固有値との固有値との和(あるいは積)である。
(2) の固有値を(重複をこめて) とすると、の固有値は、である。
証明:上三角行列の特性根、即ち固有値は、対角成分である。実際、
とすると、
より成り立つ。ここで、2番目の等式に関して下記の記事の6節定理(A)を利用した。
(1) 定理3.3より、がともに上三角行列となるようにを選べば、
より、これらの式ととの固有値が等しいことと、上三角行列の固有値は対角成分に等しいことから成り立つ。
(2) (1)の積の主張から成り立つ。
ここまで準備して、本記事の目的の主張である次の定理が証明できる。
定理3.5
ユニタリ空間の線型変換が、適当な正規直交基底に関して対角行列によって表現されるためには、が正規変換であることが必要かつ十分な条件である。
証明:が成り立つならば定理3.4より、適当な正規直交基底に関するの行列による表現はともに、上三角行列となる。が上三角行列ならば、は下三角行列
である。従って、は上三角行列かつ下三角行列であり、結局は対角行列でなければならない。
逆に、ある正規直交基底に関するの行列が対角行列ならば、であるから、が成り立つ。
定理3.5を行列の言葉で述べると次のようになる。
定理3.6
正方行列に対し、が対角行列になるようなユニタリ行列が存在するためには、が正規行列であることが必要かつ十分な条件である。
定理3.5から次の定理が導かれる。
定理3.7
ユニタリ空間の正規変換の相異なる固有値に対する固有値に対する固有ベクトルは互いに直交する。をの相異なる固有値の全体とし、を対応する固有空間とすれば、それらは互いに直交し、
となる。
証明:定理3.5より、の固有ベクトルのみからなる正規直交基底が存在する。このうち、に対する固有ベクトルだけから生成される部分空間がである。よって、
となる。
4. 参考文献
[1] 線型代数入門
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