【線形代数学入門】固有値と固有ベクトル
1. 記事の目的
本記事では、線形空間の固有値と固有ベクトルについて述べる。本記事では、 またはとする。
2. 固有値と固有ベクトルの定義
を上の線形空間、をの線型変換とする。
をで写しても、方向が変わらないベクトル、即ち
となるを、固有ベクトル、このときの数を固有値という。
のことをの固有値に対する固有ベクトルと言ったりもする。
がの固有値であるとき、に対するの固有値のベクトル全部と、零ベクトル、の集合
を、固有値に対するの固有空間という。
行列に対する固有値、固有ベクトルは次のように定義される。
が次正方行列であるとき、の線型変換
の固有値、固有ベクトル、固有空間を、それぞれ行列の固有値、固有ベクトル、固有空間という。
が複素線形空間の線型変換であるとき、の基底に関するを表現した行列をとする。但し、
である。このとき、との固有値は一致し、固有ベクトル、固有空間はによって写り合う。
固有ベクトルと線型独立性に関して、次の定理が成り立つ。
定理2.1
を上のベクトル空間、をの線型変換とする。このとき、の相異なる固有値に対する固有ベクトルは線型独立である。
証明:を相異なる固有値、を対応する固有ベクトルとする。が線形従属であったと仮定する。このときは線型独立だが、は線形従属であるようなが存在する。このとき、
と表される。式(1)の両辺をで写すと、
である。一方、式(1)の両辺にをかけると、
となる。式(2)、(3)より、
である。は線型独立なので、
となる。仮定により、より、である。従って、式(1)より、となり、が固有ベクトル()であるという仮定に矛盾する。よって、は線型独立である。
定理2.1から、の相異なる固有値に対する固有空間をとすると、和空間は直和である。実際(のときに証明する)、で、とすると、
である。よって、よりとなり矛盾。従って、となり、下記の記事の定理3.1よりである。
しかし、直和は全体に一致するとは限らない。固有空間の和が全体に一致するための条件は次のように述べられる。
定理2.2
を上のベクトル空間、をの線型変換とする。
が適当な基底に関して対角行列で表現されるためには、
が成り立つことが必要かつ十分な条件である。
証明:基底に関するの行列が対角行列
であると仮定する。であるから、
従って、である。即ちはすべてTの固有ベクトルである。固有値に対応する固有空間をとし、の基底の内でを固有値に持つものを、とする。このとき、
である。ここで、
と仮定すると、で、となる元が存在する。は以外のの基底の線型結合で表される。しかし、それらは以外の固有値に対応する固有ベクトルであるため、これはに矛盾する。よって、
である。従って、の基底はのいずれかの固有空間を生成する基底となるので、
となる。逆に、
とする。各の基底を集めることでの固有ベクトルからなるの基底が存在する。このときより、基底に関してを表現した行列は対角行列
に等しい。
定理2.2を行列の言葉で表現すると次のようになる。
定理2.3
(1) 次正方行列に対し、適切な(複素)正則行列をとって、が対角行列になるようにするためには、個の線型独立な固有ベクトルが存在することが必要かつ十分な条件である。
(2) が線型独立な固有ベクトルであるとき、それらを並べた行列
をとすれば、は対角行列である。
証明:(1) の基底に関するの行列表示が対角行列であるとする。をからの単位ベクトルからなる基底への変換行列とすると、
より、
である。従って
では個の線型独立な固有ベクトルである。逆にがすべての固有ベクトルのとき、
とし、基底から単位ベクトルからなる基底への変換行列をとするとは対角行列
となる。
(2) をの固有値に対する固有ベクトルとする。の第列のベクトルをとすると、
となる。但し、は項単位ベクトルである。よって
となる。
3. 固有値と固有ベクトルの計算方法
固有値・固有ベクトルの計算の仕方を具体例から始める。
例3.1
として、数がの固有値であるためには、斉次一次方程式
が自明でない解を持つことが必要かつ十分な条件である。
このとき
より
である。即ち
で、が自明でない解をもつには、行列
が正則行列でないことが必要十分条件である。このとき下記の記事定理7.2より
であることが必要十分条件である。
よって
より、である。のとき、
を解く。式(4)から、
より、解の一つとして
が得られる。また、のとき
を解く。式(4)から、
より、解の一つとして
例3.1から示されるように、次正方行列の固有値を求めるためには、次の方程式を解けばよい。
この式の左辺をとおき、を行列の固有方程式という。また、を固有方程式といい、固有方程式の根を、の特性婚という。
をまたは上のベクトル空間とし、をの線型変換とする。の行列表示の固有多項式、固有方程式、特性根を、それぞれ線型変換の固有多項式、固有方程式、特性根という。
の固有多項式は、行列で表示した際、基底の取り方には依存しない。実際、の行列表示以外に、行列表示があったとすると、となる正方行列が存在する。このとき、
より、基底の変換前後で、固有多項式は変わらない。
特性根が実際に、こゆうちであることは次の定理から保証される。
定理3.2
(1) 行列 (または複素線形空間の線型変換 )の固有値は、 (または )の特性根と一致する。
(2) 上の線形空間の線型変換の固有値はの実数の特性根と一致する。
証明:(1) 複素数が行列の固有値であるということは、をみたすでないベクトルが存在するということであり、それは斉次一次方程式
が自明でない解を持つということである。これは、下記の記事の定理7.2より、が成り立つことである。
(2) 上の線形空間の線型変換をとすると、任意の基底に関するの行列をとすれば、は実数値を成分とする行列であり、実数がの固有値であるということは、実係数の斉次一次方程式が自明でない実数解を持つということである。 よって、であり、は実特性根である。逆に、が実特性根であるとする。このとき、で、が自明な解を持つことと同値である。ここで、下記の記事の証明から、一次方程式系の係数がすべて実数ならば、解の状態は、複素ベクトルで考えても、実ベクトルだけで考えても変わらない。
即ち、実ベクトルの範囲で解がなければ、複素ベクトルまで考えても解はない。また、解を持つ場合の任意定数の個数も複素ベクトルで考えても実数ベクトルで考えても変わらない。従って、任意定数を時数だけに限れば、すべての実数解が得られる。従って、の自明でない解は、すべての自明でない実数解である。
よって、が自明でない実数解をもつことと、が実特性根であることは同値である。従って、上のベクトル空間の線型変換の固有値は、の実特性根と一致する。
4. 対角化可能性
行列の対角化が可能な条件を述べた次の定理が得られる。
定理4.1
行列が対角行列に掃除である( が対角行列になるような正則行列が存在する)ためには、の各特性根に対する固有空間の次元がの重複度(固有多項式で、が何重解であるか)に一致することが必要かつ十分な条件である。
証明:が対角行列に相似であると仮定する。即ちとなる正則行列と対角行列が存在する。の固有値に対する固有空間をとすると、
より、
である、。ここで、2行目の等式に関して下記の記事の定理2.1を使った。
の対角成分はの固有値に等しく、が個あったとすると( の重複度が )、
このとき
逆に、固有値の固有空間の次元が、固有値の重複度に等しいとする。まず次の主張を証明する。
「固有値の異なる固有空間の次元の総和が、ベクトル空間の次元に等しい」
固有方程式
を持つ。この中に値の異なる解が種類だけあるとし、それらを
と表す。の中にが個( )含まれていたとする。このとき
である。は解の重複度であるから、仮定より
である。従って、
となる。従って、固有値の異なる固有空間の次元の総和がベクトル空間の次元に等しい。
次にが対角行列に相似であることを証明する。異なる固有値の各固有空間から、基底に対応するベクトル
をとる。このとき、上で証明したことから、集合
の元の個数はである。定理2.1より、異なる固有値に対応する固有ベクトルは線型独立なので、式(5)の中のすべてのベクトルは線型独立である。式(5)の集合の元を並び替えることで、
と表すことにする。[\boldsymbol{p}_j]は線型独立であり、の固有ベクトルであるから、
である。ここで、はの固有値のいずれかである。
と定義すると、
である。ここで、
とおいた。の線型独立な列ベクトルの最大個数は、なので、は正則である。よって、
より、は対角行列に相似となる。
5. 参考文献
[1] 線型代数入門
価格:2,090円 |
[2] 理数アラカルト "行列が対角化可能の必要十分条件とその証明"
https://risalc.info/src/diagonalizable-matrix-necessary-sufficient-conditions.htmlrisalc.info
定理4.1の証明で利用(書籍[1]でかなり簡素に証明が述べられていたため)。記事[2]中の(S1)と(S3)の同値性が直接証明されるように書き換えた。