【線型代数学入門】置換
1. 記事の目的
以下の記事で連立方程式の解法について述べた。本記事では、連立方程式のその他の解法である、クラメルの解法や、行列式と呼ばれるもので重要となる置換に関して述べる。置換は、現代数学のあらゆる重要な部分で出現し(ワイル理論、写像類群など)、深い内容のものである。ここではその定義と、簡単な性質に関して述べる。
2. 置換の定義
「1,2」という二つの整数を、「1,2」の二つの整数に対応づけることを考える(一つの数字を使用したら、同じ数字は使わないこととする)。この方法は次の二つある。
と
である。三つ以上の整数同士でも、同様の対応を考えることができる。一般的に述べると、個の整数「」を個の整数「」に対応させる方法を文字の置換という。整数1の対応先を、整数2の対応先を、・・・、整数の対応先をとおくと、この対応方法を
と書く(上の数字を下の数字に対応させる)。記号を使用して、、・・・、と書くと、
と書ける。ここで、上の行は、と並んでなくても良い(上下の対応関係があっていれば同じ置換となる)。例えば、
である。
どの文字を動かさない置換、
を口頭置換といい、と表す。置換の逆対応(下の数字を上の数字に対応させる)を逆置換といい、で表す。例えば、
ならば、
となる。
二つの置換、の積は、の置換を適用後、の置換を行うことで定義する(から実施しないことに注意。但し、積の順番通り、から実施する流儀もある)。例えば、
とすると、
より、
「」から「」の置換全てを集めたものをと書く(集合論の言葉で、を置換の集合という)。例えば、は、
の二つの置換からなる。
2. 置換の性質
置換の集まりに関して次の定理が成り立つ。
定理
(1) がの重複のない全ての置換とすると、もの重複のない全ての置換である。
(2) を固定された一つの文字の置換とする。がの重複のない全ての置換とすると、もの重複のない全ての置換である。
(1)の証明:の置換の個数を数える。1を他の整数に対応させる候補は、通りある。2を他の整数に対応させる候補は、1に対応させた整数以外の通りある。3を対応させる候補数は、通り、・・・、を対応させる候補数は、1通りなので、置換の個数は、個である。即ち、定理の主張のは実は、である。
ならば、両辺に右から、左からを掛けると、である。対偶を取ると、ならばである。従って、の個数も個で、重複がないので、の全ての置換である。
(2)の証明
の両辺に、を掛けると、である。対偶をとって、ならば、である。即ち、はの全ての置換である。
特殊な置換に名前をつける。文字の置換で2つの文字のみを入れ替え、他の文字を動かさないような置換のことを、互換と呼ぶことにする。入れ替えられる文字をととすると、この互換を2文字のみで、と書くことができる。例えば、4文字の置換に対して、
は互換であり、
と書ける。
置換は、互換のいくつかの積で表せるという性質がある。即ち次の定理が成り立つ。
定理
任意の置換は、何個かの互換の積として表される。この時、互換の個数が偶数であるか、奇数であるかは、この互換の積で与えられている置換のみにより決まり、互換の積として表す表し方にはよらない。
証明:最初に、置換が互換のいくつかの積として表せることを証明する。文字数の帰納法で証明する。の時、
より、に関しては、全ての置換が互換の積として表されている。以下の時成立すると仮定して、を文字の置換とする。
の時、は文字の置換であり、これは帰納法の仮定より、互換の積として表すことができる。の時、
だが、右辺の最後の項は、文字の置換なので、帰納法の仮定から互換の積で表すことができる。よってのときも成立するので、帰納法より置換は互換の積で表せることが証明された。
次に互換の個数が偶数か奇数であるかは、積の表示の仕方によらないことを証明する。
を考える。ここで、は、を満たす添字に関して、全て積を取るという意味である。例えば、
である。を差積という。置換に対し、
と定義すると、
となる。実際、の右辺には、の整数から二つとった組み合わせの添字が全てある。よって、右辺の各項の添字を入れ替えると、の整数から、二つとった組み合わせ全ての添字がある。従って、の右辺は、適切に、の各項の順番を変えたものに等しいので、
である。特に、が互換の時、
である。実際、とすると、の各校の入れ替え方法は次の通りに場合分けされる。
(1) の項で、を交換すると-1倍される。
(2) となるに対し、
はを入れ替えると、倍される。
(3) となるに対し、
はを入れ替えると、そのまま。
(4) となるに対し、
はを入れ替えると、そのまま。
(5) が関係しない項は、を入れ替えると、そのまま。
具体例を用いて、視覚的に説明する。、の時、上の場合分けは図2の各部分に対応する。
置換が、互換の積として2通りに表されているとする。即ち
これを差積に作用させると
よって、
即ち、とが奇数か偶数かは一致しなくてはならない(一致しなければ、となり、矛盾)。
3. 置換の符号
行列式の定義で使用する、置換の符号を定義する。
置換が偶数個の互換の積で表現されている時、偶置換、奇数個の互換の積として表現されている時、奇置換であるという。
置換の符号を次のように定義する。
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4. 参考文献
[1] 線型代数入門
価格:2,090円 |
[2] 差積
http://www2.kaiyodai.ac.jp/~yoshi-s/Lectures/LAlgebra/2015/DifferenceProduct.pdf
差積の互換の作用による符号の入れ替わりを図で説明されており、わかりやすいと思った。
[3] 差線形代数 第9回 置換
https://mkmath.net/archives/1893
置換が互換の積で表現されることの証明で参考にした。本記事とは前から交換を実施して証明している点が異なるが、意味は同じ。但し、こちらの証明では、の場合の証明が抜けている。