1. 記事の目的
以下の記事で、部分空間と次元に関して述べた。一般に部分空間の和空間の次元は、和に分ける前の部分空間の次元の和に一致するとは限らない。このとき一致する場合の部分空間の分け方を、部分空間の直和という。本記事では部分空間の直和の定義と同値条件に関して述べる。
部分空間の定義については、以下を参照。
2. 部分空間の直和の定義
定義2.1
をベクトル空間とし、をの部分空間とする。であり、のベクトルを、のベクトルの和として表す方法が一意的であるとき、はとの直和であるといい、これを
と表す。
例2.2
とし、
とする。このときに対して、
より、である。
任意のが、を用いて、2通りの方法で、
と表されたとする。このとき
成分表示すると、
よって、より、任意のの元をの元の和として表す方法は1通りである。従って、
図形的には、2次元平面を縦軸と横軸がなす部分空間に分解したことになる(図1参照)。
3. 部分空間の直和の同値条件
部分空間の直和に関して、次の同値条件が成り立つ。
定理3.1
ベクトル空間の部分空間に対し、であるとき、次の3条件は同値である。
(1)
(2)
(3)
証明:(2)が成り立つと仮定すると、下記の記事の定理3.1よりである。よって(3)が成り立つ。また、(2)を仮定すると、再び同じ定理3.1より、である。かつであるから、下記の記事定理2.2(2)よりである。よって、(2)が成り立つ。従って(2)と(3)は同値である。
後は、(1)と(2)の同値性を示せばよい。とする。の元が2通りに、
と表されれば、
が成り立ち、左辺は、右辺はの元であるから、ともにの元、すなわちである。よって、をとの元の和として表す方法は1通りであり、はとの直和である。にでない元があったとすると、
はの2通りの分解を与えるので、はとの直和ではない。よって、(1)と(2)の同値性が成り立つ。
4. 2つ以上の部分空間による直和
ベクトル空間を2つの部分空間の直和に分けたが、これは個に拡張することができる。すなわち、次のように述べられる。
定義4.1
ベクトル空間の部分空間があり、の任意の元がの元の和として表されるとき、をの和空間といい、
と書く。特に
このとき、次の同値条件が成り立つ。
定理4.2
であるとき、次の3条件は同値である。
(1)
(2)
(3)
証明:に関する数学的帰納法によって証明する。ならば定理3.1により定理が成り立つ。とし、のときは成り立つと仮定する。
とおく。(1) (3) (2) (1)を証明する。
(1) (3) 仮定より、
が成り立つので、数学的帰納法の仮定より
(3) (2) であるから、
一方であるから
よって、(3)の仮定から、
定理3.1より
となる。
(2) (1) の元が2通りに、
と表されれば、任意のに対して、
が成り立ち、左辺はの元、右辺はの元であるから、ともにの元、即ちである。は任意であるからより、和の表し方は1通りである。よって、はの直和である。
5. 参考文献
[1] 線型代数入門
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