ベイジアン研究所

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【線形代数学入門】行列の階数

1. 記事の目的
以下の記事で、行列の基本変形に関して述べた。本記事では基本変形を利用して、行列の階数という概念を導入する。行列の回数を導入すると、連立方程式が解けるための条件を記述することができる。

camelsan.hatenablog.com

2. 定理
行列の階数を導入するために、まず次の定理を証明する。

任意の(m,n)型行列Aは、基本変形を何回か行うことで、次の標準形に変形される。

F_{m,n}(r)=\begin{pmatrix}E_r&0_{r,m-r}\\0_{m-r,r}&0_{m-r,n-r}\end{pmatrix}

F_{m,n}(r)は図1のような行列である。

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図1 行列の標準形
対角線に並ぶ1の数はrは、Aのみにより決まり、基本変形の仕方にはよらない。
証明A=0ならば、F_{m,n}(0)=0より、Aはすでに標準形である。A\neq 0ならば、Aの少なくとも一つの成分で0でないものがあるので、基本変形を行うことで、(1,1)成分に0でない成分を移動させることができる。(1,1)をかなめとして、第1列、第一行を吐き出せば、

\begin{pmatrix}1&0&\dots&0\\0&&&\\\vdots&&*&\\0&&&\end{pmatrix}

の形になる。行列の掃き出しに関しては以下の記事を参照。

camelsan.hatenablog.com

ここで、第1行及び第1列以外の全てが0であれば、F_{m,n}(1)の標準形となり、定理が成立する。もし、第1行及び第1列以外に、0でない成分があれば、その成分を基本変形により、(2,2)成分に移し、(2,2)成分をかなめとして、第2列と第2行を掃き出すと、

\begin{pmatrix}1&0&\dots&0\\0&1&\dots&0\\0&0&&\\ \vdots&\vdots&*&\\0&0&&\end{pmatrix}

の形に変形される。この操作を可能な限り続ければ、行列の大きさは有限なので、あるrに関して、F_{m,n}(r)の形になる。
次に、rが(基本変形によらず)一意に決まることを示す。Aが2通りの形、F(r)=F_{m,n}(r)F(s)=F_{m,n}(s)と変形されたと仮定する(r\neq s)。ここで、rsのいずれかが小さいので、小さい方をrとすれば、一般性を失わずr\le sと仮定できる。AF(r)F(s)に変形されるので、ある正則行列P_1Q_1P_2Q_2があって、

P_1AQ_1=F(r)
P_2AQ_2=F(s)

よって、

A=P_1^{-1}F(r)Q_1^{-1}
A=P_2^{-1}F(s)Q_2^{-1}

と変形されるので、

P_1^{-1}F(s)Q_1^{-1}=P_2^{-1}F(r)Q_2^{-1}

となり、

F(s)=P_1P_2^{-1}F(r)Q_2^{-1}Q_1

となる。即ち、P=P_2^{-1}P_1Q=Q_2^{-1}Q_1とおくと、正則行列PQを使って

F(s)=PF(r)Q

と表せる。PQの行と列をr番目で四つに対称に区分けをして、

P=\begin{pmatrix}P_{11}&P_{12}\\P_{12}&P_{22}\end{pmatrix}, Q=\begin{pmatrix}Q_{11}&Q_{12}\\Q_{21}&Q_{22}\end{pmatrix}

とすれば(P_{11}Q_{11}(r,r)型行列)、

\begin{split}F(s)&=\begin{pmatrix}P_{11}&P_{12}\\P_{12}&P_{22}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}E_r&0\\0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}Q_{11}&Q_{12}\\Q_{21}&Q_{22}\end{pmatrix}\\&=\begin{pmatrix}P_{11}&0\\P_{12}&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}Q_{11}&Q_{12}\\Q_{21}&Q_{22}\end{pmatrix}\\&=\begin{pmatrix}P_{11}Q_{11}&P_{11}Q_{12}\\P_{21}Q_{21}&P_{21}Q_{22}\end{pmatrix}\end{split}\tag{1}

r\le qの仮定により

P_{11}Q_{11}=E_r\tag{2}
P_{11}Q_{12}=O_{r,m-r}\tag{3}
P_{21}Q_{11}=O_{m-r,r}\tag{4}

が成り立つ(図2参照)。

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図2 (1)の参照図
以下の記事の正則行列に関する定理より、P_{11}Q_{11}は正則である。

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従って、(3)、(4)より、

Q_{12}=P_{11}^{-1}O_{r,m-r}=O_{r,m-r}
P_{21}=O_{m-r,r}Q_{11}^{-1}=O_{m-r,r}

よって、P_{21}Q_{12}=O_{m-r,n-r}となる。従って、(1)は、

F(s)=\begin{pmatrix}E_r&0\\0&0\end{pmatrix}

となり、これはr=sでなければ成立しない。

3. 行列の階数
2.の定理で定まる、行列Aに対する数、rを行列Aの階数という。rは定理に示されているように、行列Aだけで、一意に決定される。
例:次の行列Aの階数を求める。

A=\begin{pmatrix}2&1&3\\4&2&6\end{pmatrix}
\begin{split}A&\rightarrow\begin{pmatrix}2&1&3\\0&0&0\end{pmatrix}\ \ \ \ (\textbf{第1行目のー2倍を第2行目に加える})\\&\rightarrow\begin{pmatrix}2&0&3\\0&0&0\end{pmatrix}\ \ \ \ (\textbf{第1列目の-1/2倍を第2列目に加える})\\&\rightarrow\begin{pmatrix}2&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}\ \ \ \ (\textbf{第1列目の-3/2倍を第3列目に加える})\\&\rightarrow\begin{pmatrix}2&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}\ \ \ \ (\textbf{第1行目を1/2倍する})\end{split}

従って、Aの階数は1である。

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4. 参考文献
[1] 整形代数学入門