1. 記事の目的
次の記事で集合について定義と演算について述べた。ここでは、集合間の対応関係を規定する、写像について述べる。
2. はじめに
「写像」という言葉は幸いにも、2ちゃんねるの創設者である、ひろゆき氏により、「写像おばさん」などの言葉で広く知れ渡っている。しかし、実の所、その意味までわかっている方は少ないのではないのだろうか。「写像おばさん」の愛称で知られる勝間和代氏は、無説明で写像という言葉を使用し(インターネットの世界は現実世界に対応しているということを伝えたかったのであろう、とはなんとなく感じた)、ひろゆき氏に写像の意味を尋ねられたときに「だめだこりゃ・・・」と返しているあたりで、本人もその意味をよくわかっていないのであろうと思う(実の所、数学で博士の学位を取得し、国際誌に単著で論文を掲載した筆者にも写像とは何か、本当の意味は全く理解できていないように感じる)。ここではなるべく身近な例を使用して、写像とはん何なのかを解説してみようと思う(これは大変に挑戦的なことである)。
追記:後日談で、ひろゆき氏は「シャゾウ」という音声だけを急に聞いて、よくわからなかったと答えている。
3. 写像とは
今部屋に、三角と、四角と、丸の積み木が散らばっているとする。また、「三角」、「四角」、「丸」と書かれた箱も置かれているとする(図1参照)。
このとき、「三角、と書かれた箱には三角の積み木を、四角、と書かれた四角の積み木を、丸、と書かれた箱には丸の積み木を入れよ」という命令をされたとする(片付けをしなさいとか)。このとき片付けた結果は図2のようになる。
このように、三角の積み木は三角の箱に入れるなど、二つのものの集まりの間の対応関係(積み木と箱を対応させている)を、写像とよぶ。
二つの集合「積み木の集合」、「箱の集合」に対して、三角の積み木は三角と書かれた箱へ、四角の積み木は四角と書かれた箱へ、丸の積み木は丸と書かれた箱へ、という対応関係の写像が定義されたことになる(図3参照)。 積み木の例を、集合や元などの言葉で抽象化したものが写像の定義となる。
4. 写像の定義
を集合とする。の各元に対し、の一つの元を対応させる規則を、集合から集合への写像という。からへの写像を記号でと表すことにし、の元をBの元へ移したとすると、
と書く。このとき、をの定義域、をの値域という。写像での元を全て写したとする。このとき、の全ての元がに写った元の集合を、の写像による像といい、と書く。すなわち
である(図4参照)。
5.写像の逆像
とする。つまり、実数をそのまま同じ実数に写す写像を考える。に対して、となるはである。一方
とすると、となるは、とである。また、となる実数は存在しない。値域のひとつの元に対して、そこに写ってくる定義域の元は1つとは限らない。値域のに対し、で写ることのできる集合
をのに関する逆像といい、と書く。即ち、
一般に、集合に対して、写像
があったとき、に対し、
と定義し、のに関する逆像という。に写ってくるの部分集合である(図5参照)。
6.写像の相等と合成写像
2つの写像が同じであるという定義を述べる。集合の二つの写像
に対し、すべてので、
であるとき、とは等しいといい、
とかく。
続いて、写像の合成に関して述べる。写像の合成とは、2つの写像を続けざまに適用することである。正確に述べると次のようになる。集合に対し、写像
を考える。との合成写像を、に対し、
に写す写像と定義し、とかく。合成写像が定義できるには、の像がの定義域に含まれている必要がある(図6参照)。
以下で、特殊な写像で、重要なものを説明する。
7.単射
集合間の写像に対して異なるの2元[tex;a_1, a_2]で必ずのことなる2元に写るとき、写像は、単射であるという(図7参照)。
例:
に対し、
とすると、定義域内の異なる2元に対し、値域内の異なる2元に写すので、単射である。
一方、
に対して、
とすると、定義域内でだが、となるので、は単射ではない。
8. 全射
を集合間の写像とする。の元をすべてで写すと、の元すべてに写るとは限らない。例えば、
に対して、
とすると、
であり、値域のに写る定義域の元は存在しない。
そこで、のどの元にも、から写ってくる元が存在するとき、写像は全射であるという。記号で、のとき、全射である(図8参照)。
例:
に対して、
とすると、
より、全射である。
9. 全単射写像
全射かつ単射な写像を、全単射写像、もしくは、一対一対応という。
全単射写像は、の一つの元に対して丁度1つのによって写されるの元が存在する。このとき逆にの元の1つからの一つの元を対応させる規則がある。これをの逆写像と呼び、とかく。
例:
に対し、
は、
である。
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参考文献
[1] Thinkit, ”写像への目覚め-機械学習とは写像の構築である-"
写像への目覚めー機械学習とは写像の構築であるー | Think IT(シンクイット)
「3.写像とは」を書くときに参考にした。写像の意味に関してわかりやすくまとめてあり大変わかりやすかった。
[2] 線型代数入門
線型代数入門 (基礎数学) | 齋藤 正彦 |本 | 通販 | Amazon
[3] 集合・位相入門