【線形代数学入門】ベクトル空間の定義
1. 記事の目的
本記事では、ベクトル空間の定義を述べる。ベクトル空間は、行列全体の空間や幾何ベクトルの集合を一般化した集合である。代数的には、和とスカラー倍を有する集合のことである。本記事では集合と写像の知識を仮定している。集合と写像に関しては以下の記事を参照。
2. ベクトル空間の定義
本節では、ベクトル空間を、幾何ベクトルの一般化として導入する。以下の記事で幾何ベクトルについて述べた。
幾何ベクトルは、次の2つの操作が可能である。
(以下、幾何ベクトルもベクトルと呼称する。)
①和
②スカラー倍
以下でそれぞれに関して述べる。
①和
2つのベクトル
を考える。ベクトルを次の定義で和をとることができる。
例:
とすると、
図形的には図 1 のように解釈することができる。 とがつくる平行四辺形の対角線となる。
①スカラー倍
を実数とし、
をベクトルとする。このときを倍することができる(スカラー倍という)。
例:
とすると、
図形的には図2のように解釈することができる。 即ち、方向は同じでベクトルの長さのみが2倍される。
以上をまとめると、幾何ベクトル全体の集合
は、和とスカラー倍と呼ばれる操作が存在する。これを抽象化する。即ち、逆に、和とスカラー倍を持つ集合のことをベクトル空間と呼ぶことにする(ベクトル空間の各々の元はある規則を満たすこととする)。正確に、ベクトル空間を次のように定義する(以下のの定義において、〇〇[△△]は、〇〇のかわりに、△△としてもよいことを表す。ただし、〇〇と△△を交互に入れ替えてはならず、一方のみに統一する)。
定義
集合が次の①、②を満たすとき、実[複素]ベクトル空間という。
① の2元に対し、和と呼ばれる第3の元(と表す)が定まり、次の法則が成り立つ:
(1)
(2)
(3) 零ベクトルと呼ばれる元(で表す)がただ1つ存在し、のすべての元に対して
が成り立つ。
(4) のすべての元に対し、となるの元がただ1つ存在する。をの逆ベクトルといい、で表す。
② の元と実数[複素数]に対し、の倍と呼ばれるもう一つのの元(と表す)が定まり、次の法則が成り立つ。
(5)
(6)
(7)
(8)
ベクトル空間の元を単にベクトルと呼ぶ(幾何ベクトルの集合の元の一つをベクトルと呼んだことの抽象化)。実[複素]ベクトル空間を[ ]上のベクトル空間と呼ぶこともある。
3. ベクトル空間の例
(1) 幾何ベクトルの集合を、
とする。幾何ベクトルを、2行1列の行列とみて、行列の和の演算規則からベクトル空間の定義①(1)、(2)が成り立つ。行列の和の演算規則に関しては以下の記事を参照。
続いて、
とすると
に対して
より、が零ベクトルである。また、
とすると
よりの逆ベクトルは、である。従って、ベクトル空間の定義の①(3)、(4)が成り立つ。一方、行列のスカラー倍の規則から、幾何ベクトルについて、ベクトル空間の定義②が成り立っている。
以上より、幾何ベクトルの集合はベクトル空間である。
(2)幾何ベクトルの矢印のイメージを離れた例を紹介する。写像の集合もベクトル空間となる。
を集合とする。から実数の集合への写像全体の集合
は次の和とスカラー倍でベクトル空間となる。の元、の元に対し、
以下で、ベクトル空間の定義に従って、このことを証明する。
①-(1) に対し、
よって写像の相等の定義より、
①-(2) に対し、
よって写像の相等の定義より、
①-(3) すべてのに対し、に写す写像をとかく。即ち
である。このとき、に対し、
よって、より、がの零ベクトルである。
①-(4) に対して、を次のように定義する。
このとき、
よって、より、がの逆ベクトルである。
②-(1) に対し、
よって、
②-(2) に対し、
よって、
②-(3) に対し、
よって、
②-(4) に対し、
より、。
以上より、はベクトル空間である。
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参考文献
[1] 線型代数入門
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